[横浜] 太田なわのれんの牛鍋は文明開化の味がする

とっておきの友人とランチをするのはどこがいいんだろう。特にそれが、海外から来る友達だったら。

 

実は、僕はあまりそういう店を知らない。本当は、とっておきの友人と会うための、とっておきの店をいくつか知っていればいいと思うのだけれど、なかなか見つけられない。でも逆にそういうお店を知っているという事が、大人に一歩近づくという事なのかもしれない。

 

今回は、海外から日本に遊びに来た友人が教えてくれたお店を紹介する。僕はこの店を、とっておきの店としてレパートリーに入れた。

 

 

牛鍋について

ところで、牛鍋についてはご存じだろうが?

高村光太郎がその代表的な詩集<道程>に収録した米久の晩餐>では、浅草の名店<米久>の牛鍋について書かれている。

八月の夜は今米久にもうもうと煮え立つ。

わたしと友とは有頂天になつて、
いかにも身になる米久の山盛牛肉をほめたたへ、
この剛健な人間の食慾と野獣性とにやみがたい自然の声をきき、
むしろこの世の機動力に斯かる盲目の一要素を与へたものの深い心を感じ、
又随所に目にふれる純美な人情の一小景に涙ぐみ、
老いたる女中頭の世相に澄み切つた言葉ずくなの挨拶にまで
抱かれるやうな又抱くやうな愛をおくり、
この群衆の一員として心からの熱情をかけかまひの無い彼等の頭上に浴せかけ、
不思議な溌溂の力を心に育みながら静かに座を起つた。

八月の夜は今米久にもうもうと煮え立つ。

高村光太郎 米久の晩餐より引用

 

でもこの牛鍋はすき焼きの方。

今回はすき焼きじゃない方の牛鍋を紹介したいと思う。そう、牛鍋といっても偏に語れないのだ。

 

太田なわのれん

今回紹介する太田なわのれんは、明治元年(1868年)創業の老舗だ。このお店の看板料理は<牛鍋>で、すき焼きとは違った牛鍋が食べられる。

 

牛鍋元祖 太田なわのれん
住所 : 神奈川県横浜市中区末吉町1−15
電話 : 045-261-0636

ちなみに店名のなわのれんとは、縄暖簾のこと。お店の暖簾を見ると、確かに縄の暖簾だった。

 

 

お料理

今回は夏の牛鍋懐石なるものをいただいた。1人前で約1万円とかなり強気な値段設定だが、それに見合う価値はあったと思う。

先付は、牛肉と焼雲丹の一口にぎり。それに牛筋の煮凝りと金木犀もついて、夏らしい一品だった。牛鍋への期待が膨らむ素敵な先付だ。

 

 

続いて八寸は左から、

  • 姫さざえの甚太和え
  • 鱧の梅肉寄せ
  • ミニとまと海月射込み
  • 南瓜の肉味噌田楽
  • もろこしかき揚げ
  • 金時草の浸し

これは一品一品がまるで芸術作品のよう。どれから頂くか迷ってしまう。すべてが一口で食べられるサイズなので、とてももったいないが、もちろんそれぞれの料理には油断がなく、どれも丁寧だ。美味しい料理を目の前に会話も弾んでいく。

 

 

すると、メインのぶつ切り牛鍋が出てくる。これが名物の牛鍋である。すき焼きとは全く違った牛鍋で、角切りの肉が七輪に置かれている。そして中央には味噌と白ネギ。ここで一旦写真撮影タイムが始まる。店員さんもわかっているのである。

一通り、みんながインスタ用の写真を撮り終えると、店員さんが鍋を作ってくれる。

 

「よかった。。。」

 

これを置かれて行っても、どうすればいいのかわからなかった。こういったお店では、それぞれのお皿に料理が乗るところまで面倒を見てくれるのだ。

 

 

店員さんが、面倒を見てくれた後の牛鍋はこうなる。

白滝と春菊が入って具材はすき焼きと変わらないのだが、脂が濃厚な味噌と溶け合って絶妙な加減だ。口の中で味噌と絡まった良質な脂が溶けるのは、この鍋でしか味わえない。そこに春菊の爽やかな香りがやってくる。口の中で完成されるのである。

 

一通り牛鍋を楽しんだ後は、デザートの時間。この日のデザートは、メロンのゼリー寄せだった。これも甘すぎない贅沢なメロン。夏らしい磁器に盛られて、一層見た目も引き立つ。これが太田なわのれんでのランチだ。

 

 

最初、この店の名前を聞いたとき、どんなかしこまった店だろうと思った。なんてったって明治元年(1868年)創業の老舗だ。しかし実際に行ってみると店員さんも丁寧に接客してくれ、これっぽっちも堅いところがなく、カジュアルに行っても全く問題はなかった。

初めて食べる牛鍋は、文明開化の味がした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください